プラークは細菌の塊
歯周病は歯周病菌が引き起こす感染症です。私たちはふだん、歯みがきなどの口腔ケアで口の中の汚れを取り除いています。しかし、ケアを怠ったり、ケアが不十分だったりすると、細菌が増殖して歯周病の原因になります。
口の中にはもともと多くの細菌がすんでいます。そのうちのむし歯菌がまず歯にくっつき、口に入った食べ物や飲み物の糖分などをエサにしてネバネバした物質を出し、自分たちのすみかをつくり始めます。細菌にとってすみやすい場所ができると、そこに歯周病菌など別の種類の細菌も集まって来て増殖します。この状態をプラークといいます。楊枝で歯と歯の間を掃除すると取れる白いものが「プラーク」です。
プラークは以前、歯垢(しこう)と呼ばれていましたが、近年の研究によって、単なる歯の汚れや垢(あか)というより、細菌がパックされたものであることがわかりました。プラーク1mgには数億個の細菌がいるといわれています。
できたばかりのプラークは歯みがきでだいたい落とせます。しかし、歯みがきを1日怠ると、落としにくくなります。プラーク内の細菌同士が情報を交換してヌルヌルした物質をつくりだし、より強固な塊にするからです。この状態を「バイオフィルム」といいます。
プラークとバイオフィルムは状態がちょっと違いますが、基本的には同じものです。付け加えると、バイオフィルムは一般名称で、プラークだけに使われる言葉ではありません。身近な例では、排水口のヌルヌルした膜。あれもバイオフィルムです。
バイオフィルムは付着する力が強いので、歯にこびりつきます。そこに唾液中のカルシウムなどが作用して石灰化し、「歯石(しせき)」になります。プラークができてから2、3日で石灰化が始まり、2週間ほどで歯石になります。歯石になってしまうと、自分では除去できません。
「歯みがきで出血」は歯周病のサイン
プラークは歯と歯肉の間の歯肉溝にたまります。その中にいる歯周病菌は、もっと奥に入ろうとして歯肉を攻撃し始めます。すると、体を外敵から守る免疫細胞が集まって来て戦いを繰り広げ、歯肉に炎症が起こります。これが、歯肉の腫れや、歯みがき時の歯肉からの出血という症状になるのです。歯周病に早く気づくには、こうした症状を見逃さないことが大切です。
プラークが残っていると、歯肉溝が深くなり、ポケット*と呼ばれるようになります(図1)。ポケットが深いとプラークがたまりやすくなり、さらにポケットが深くなるとう悪循環に陥ります。
*炎症が歯肉にとどまっている間は「歯肉ポケット」、炎症が根に進むと「歯周ポケット」となる
図1 バイオフィルムの状態になったプラークと歯周ポケット
歯肉溝の深さは通常1~2mmなので、3mm以上になると歯周病が始まっていると考えられます。歯周病は中高年の病気と思われがちですが、歯周病ポケットが4mm以上ある人は、20代前半でも4人に1人を数えます。その割合は高齢になるほど高くなり、50歳を過ぎると半数以上になります(表1)1)。
表1 年齢層別歯周ポケット保有者の割合
年齢層 | 歯周ポケット(4mm以上)のある人 |
20~24歳 | 25.7% |
↓ | 年齢が上がるとともに増えていく |
50~54歳 | 54.1% |
※厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査をもとに作成
ポケットを深くしないためには、歯みがきを基本とするプラークコントロールが必須です。
《参考資料》
朝波惣一郎(著)ほか, このまま使える Dr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本 患者教育に重要なトピック14. クインテッセンス出版 2019
下山和弘, 秋本和宏(編), カラー版 やさしい歯と口の事典. 医歯薬出版 2018