装置は透明で取り外し可能
歯並びを直す方法としては、歯にボタンのような器具をつけて、そこにワイヤーを通すブラケット矯正が一般的です。矯正治療として歴史があり、効果も約束されていますが、装置が目立つという欠点があります。人と会って話すことが多い職業の人などにとって、これは治療をためらう大きな理由になるでしょう。
この不満を解消するのが、取り外しできる透明なマウスピースを歯に装着するマウスピース矯正です(図1)。歯を動かす仕組みはブラケット矯正と同様ですが、歯にかかる力は舌で歯を押す程度で、ブラケット矯正より弱くなっています。
そのため、目立つ八重歯がある、かなりの出っ歯(上顎前突)、歯がねじれているなど、抜歯が必要だったり、歯を大きく動かさなければならなかったりする場合は、他の方法を併用することもあります。
図1 矯正に使うマウスピース
20個以上の装置を順番に使って少しずつ歯を動かす
マウスピース矯正のシステムにはいくつかの種類がありますが、ここでは、1999年にアメリカで提供が始まり、多くの国で導入されている「インビザライン」を例にとります。
このシステムでは、最初に1回、歯型をとります。それをコンピューター上で3次元画像にし、目標の歯並びになるまでの歯の動きをシミュレーションします。その動きに対応させたマウスピースを20~25個ほどつくり、順番通りに装着することで歯を少しずつ動かしていきます。1つのマウスピースの装着期間は約2週間です。
歯型をとってからマウスピースができるまでに1か月以上かかります。装置ができたら受診し、歯科医師から使用方法などを学びます。マウスピースは一度に渡されるので、通院は経過観察を目的としており、1~2か月に1回ですみます。
持ち帰ったマウスピースは自分で装着、管理します。装着時間は1日20時間が目安なので、食事や歯みがきのとき以外は着けていることになります。
治療期間は一般に1~2年ですが、それ以上かかることもあります。治療が終わったら、歯並びが元に戻らないよう、リテーナーと呼ばれる保定装置を1年以上着けます。
卵のパックほどの薄さ
マウスピース矯正のメリットは目立たないことです。装置は透明で、卵のパックほどの薄さですから、口を開けても気づかれにくいといえます。圧迫感や痛みも少なく、自分で取り外せるので、食事や歯みがきは普段通りにできます。また、金属が使われていないので、金属アレルギーの人も安心して装着できます。
注意点は1日20時間の装着が必要なことで、食事や歯みがきの時以外は、ほとんど装着することになります。外す時間が長いと、計画通りに歯が移動せず、治療が長引くことになります。
飲食する際は、マウスピースを外すのが原則ですが、着けた状態で飲食をした場合は、その後すぐにはずして洗い、うがい、歯みがきをしましょう。なお、水の場合はマウスピースを着けた状態で飲んでも大丈夫ですが、ジュースなど糖分を含むものの場合は、虫歯や歯周病を予防する観点から、マウスピースを外す必要があります(表1)。
表1 マウスピース矯正のメリットと注意点
メリット | 注意点 |
・目立たない
・圧迫感や痛みが少ない ・食事や歯みがきが普段通りにできる ・金属アレルギーの人もできる |
・1日20時間の装着が必要
・適さない人がいる ・飲食の際は、外すのが原則 |
《参考資料》
日本成人矯正歯科学会(編), やさしくわかる矯正科治療 歯並びコーディネーター入門書.医歯薬出版 2015